【布施(2)】
イタリア文学者の須賀敦子さんは、
日本とイタリアの文学作品の翻訳を通して、
両国の交流に多大な貢献を果たした人ですが、
意外にも学生時代はフランスに熱い憧憬があり、
フランス文学を学ぶために留学したそうです。
そんな彼女がどうして20代半ばにしてイタリア文学に転身したのか、
その理由をエッセイに明かしていました。
留学先のフランスでは絶えず自分の話すフランス語をけなされ、
そのうちコミュニケーションを取るのも萎縮してしまったそうです。
ところがその後、イタリアへ移り住むと、
わずか二か月で、日常に不便の無い程度に話せるようになったとのこと。
その理由は、彼女が新しい表現を覚えるたびにイタリア人が、
「ブラーヴァ(うまい)」とほめてくれ、
イタリア語を話すのが楽しくなったからだったそうです。
フランス人は一人の日本人留学生のしゃべるフランス語をダメ出しし続けたばかりに、
多くの日本文学に接する機会を失ってしまったということですね。
この話を読んだとき、私もアメリカ滞在中の記憶が思い返されてきました。
郵便局で英語がうまくしゃべれない私に、
郵便局員が露骨にイライラした顔をしたので、
その郵便局に行くのがおっくうになってしまったこと。
日系人で日本語の話せる方と仲良くなり、
その方の自宅のホームパーティーに招待されたものの、
パーティー会場にその人以外に日本語が通じる人は誰もおらず、
英語の会話に交じれぬ私は手持ち無沙汰になり、
疎外感を感じ、早く帰りたくなったこと。
これらアメリカでの経験は私にとって、
ちょっとした苦い思い出の一つになっています。
そういう経験があるからでしょうが、今でも
外国人がウェイトレスの注文やスーパーのレジなどでミスしたり、まごまごしているのを
イライラした顔で応じたり、語調が荒くなっている日本人を見ると
同じ日本人として恥ずかしいですし、諫めたくなります。
そういう言動の一つ一つが、日本と彼らの母国との壁を築き、
お互いの理解を妨げることになっていることを感じます。
一方で焦りながら対応している外国人には応援したい気持ちになります。
言葉も文化も慣れない日本に来て、
ストレスを感じることも多いだろうに、
精一杯がんばっているのですから、
日本に来て良かった、と感じてほしいなと思います。
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