【流転輪廻(1)】
もう何年か前ですが、ある番組の対談で、
さまぁ~ずがその頃売れ筋だった芸人に、
「ブレイクしてすごいね」と言うと、
「いや、ホント不安なんです。このまま消えたら一発芸人なので。あの売れなかった時代に戻ると思うと怖くて」
「僕らからしたらさまぁ~ずのみなさんはプラチナカードなんです。僕らもなんとかプラチナカードの仲間入りをしたいんです」
と芸人が答えていました。
その言葉にさまぁ~ずが
「いやいや、プラチナカードなんて思ったこと一度もない。こっちも不安なのは一緒だよ」
と返していたのが印象的でした。
学校のクラスの「おもしろい人」の一握りが「プロの芸人」になり、
「プロの芸人」の一握りが「ブレイクした芸人」になり、
その「ブレイク芸人」のそのまた一握りが、
ずっと活躍する「プラチナカード芸人」となるのですが、
どこまで行ってもこれでヤレヤレということはないようです。
イチローと王が対談で
「バッティングはほんとうに難しい」としみじみと語っていますが、それにもそれがあって、
2割5分しか打てない人の「難しい」と、
3割打つ人の「難しい」は違いますし、
首位打者を争うような人の「難しい」もあるのです。
少年野球の「上手い子」の一握りが強豪校にスカウトされ、
その強豪校のエースや主軸の一握りが、ドラフトで指名されプロ野球選手になります。
しかしせっかくプロに入っても、さらにその一握りしか一軍のレギュラーになれず、
二軍の選手は「今年がんばらないと今度こそ自由契約(クビ)かも」と自己の境遇に怯え、
一軍のレギュラーを見ては「いいなあ、才能に恵まれたあんな人は、悩みなんかないんだろうな」とうらやんでいます。
では一軍のレギュラーには悩みがないのか、といえば、
追う立場から追われる立場に変わるだけで、やはり苦しんでいます。
プロ野球のレギュラーの中でも際だった結果を遺し続けたイチローが引退記者会見で
「プロに入って最初の2年、1軍に行ったり来たりの時は結構楽しかった。
3年目で急に番付を上げられちゃって、そこから先はずっとしんどかった」
と述懐していることからもそれは知られます。
こっちは背水の陣だというのに、あの人は余裕だろうな、と
こちらからするとうらやましくて仕方ない人も
その人のその立場の人にしか分からない不安や悩みがあるようです。
「のんきに見える人々も心の底を叩いてみれば、どこか悲しい音がする」
と言ったのは夏目漱石です。
文壇で大成功し、金も名声も築き、妻子と共に大邸宅に住み、多くの弟子を持っていた夏目漱石は、
多くの庶民からは「のんきに見える人々」だったのかもしれませんが、
妻に書いた手紙の中で「人間は生きて苦しむだけの動物なのかもしれない」ともらしています。
周りからうらやまれている人も、苦しんでいるのは同じです。
表面だけ接しているうちは分からなくても、
よくよくその人たちの胸の内を聞いてみると、
「どこか悲しい音がする」寂しい、虚しい、不安な心を抱えているのです。
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