【火宅無常の世界(1)】
「胡蝶の夢」といわれる故事があります。
「胡蝶」とは蝶々のことで、
中国の思想家・荘子が蝶(ちょう)になった夢を見た、という話です。
花から花へひらひらと楽しんでいたが、急にハッと目が覚めた。
そこにはいつもの部屋、いつもの布団に人間である自分がいる。
荘子はあまりにリアルな夢に、
「あれは夢だったのだろうか」
「いや、この人間の姿をしている今が、夢なのではなかろうか」
としばし戸惑った、という話です。
私も悪夢と言うほどでもないですが、
何か大きな失敗をしでかして狼狽する夢を見て、
ハッと目が覚めた時、
「あ~、夢でよかった」
と胸をなで下ろすことがあります。
ところがあまりに深刻な夢の内容に
「あれ、夢だったんだよな」としばし自問した経験もあるので、
『胡蝶の夢』の故事には共感するものがあります。
先日、仏教の勉強会に来られた40代の男性の方の話にも、
『胡蝶の夢』を思い出しました。
その方は奧さんを亡くされ、5年経つというのですが、
今なお奧さんと交わした会話をふと思い出されるそうです。
そういえばあいつ、あんなこと言っていたなあ、もう5年も経つのに、
と思われるとのこと。
二人で言い合った冗談や、
些細なことでケンカしたこと。
しかしその記憶も
「あれって、本当にあったことなんだろうか」
と自信がなくなってくる。
なぜなら、確かにそういうことあったね、と
その時のことを証明してくれる人が、
もうこの世にいないのだから。
自分のぼんやりした記憶の中にあるだけのこと、
本当にあったんだろうか、
ふとすると夢の中での出来事のようにも思えてくる、
と言われていました。
夫婦で心を通わせた日々も、
胡蝶の夢と化してしまった、ということでしょう。
今年ももうすぐ終わります。
平成もあと数ヶ月で終わろうとしています。
今年あったことも、
平成時代に経験したことも、
いつの日か胡蝶の夢と化すのでしょうか。
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