【因縁(1)】
仏教に『怨憎会苦』という言葉があります。
嫌な人と会わねばならない苦しみのことです。
嫌な人はどこにでもいるので、無人島にでも住まない限り、この苦しみは避けて通れないのですが、それでも少しでもこの苦しみが軽減する教えはないか、誰しも知りたいことです。
そこで今回から何回か「嫌いな人との上手な接し方」をテーマに仏教の教えをお話ししたいと思います。
まず最も大切なことをお話しします。
嫌いな人と接するとき、これを知るか知らないかで大違いになる、この課題の最重要ポイントです。
それは「あいつのせいで苦しんでいるという思考にとりつかれないこと」です。
この思考を仏教では「他因自果」といいます。
他(あいつ)の因(せい)で自(わたし)は果(こんなひどい目)に遭っている、という思考です。
この思考に陥ると大変苦しむことになります。
仏教ではこの思考を「愚痴」といい、黒鬼にたとえられます。
この黒鬼が私たちをきりきり舞いさせているのです。
私たちを苦しめているのは「あいつ」ではなく、「あいつのせいで苦しんでいるという思い」なのです。
そんなこと言われたって、事実あいつの言動によって苦しまされているんだ、
誰が聞いてもあいつの言動の方がおかしい、
俺だけじゃない、みんな迷惑しているんだ、
たとえば最近こんなこともあった……
とその方が語る内容は説得力があり、
誰が聞いてもその方の言われる「あいつ」の言動で苦しまされているとしか思えない、とします。
それでもなお「あいつ」のせいではない、と言えるのか、
お釈迦さまにお聞きすると、釈迦は泰然と「そうですよ、あいつのせいではありませんよ」と答えられます。
ではあいつのせいでないというのなら、オレが今こうして苦しんでいるのは誰のせいなんだ、
とお釈迦さまに問い質すと、
釈迦は厳然とこう答えられます。
「因縁のせいなんですよ」
この「因縁」とは何なのでしょうか。
ここをよく知ることが大事になってきます。
「因縁」については次回お話しします。