【精進(2)】
新型コロナウイルスは長引きそうです。
終息するのはいつになることやら、
延期になったオリンピックもどうなるかわかりません。
ビフォーコロナ、アフターコロナといわれるほど、
仕事のやり方や経営のあり方など人の価値観や世の中全体も変わるともいわれます。
その来たるべき時代に各界で活躍する人が多く現れるでしょうが、
そういう人は今まさに部屋にこもって、着実に、かつ猛然と剣を研いでいるに違いありません。
不自由でも志を捨てず、晩年に開花させた人として、
襟を正される思いになるのが、クマーラジーヴァ(鳩摩羅什・くまらじゅう)です。
鳩摩羅什は数ある仏典翻訳家の中でも唐の玄奘と並び、最大の功績を残した人として知られますが、
その生涯は波乱に富んだものでした。
350年、亀茲国(今の新疆ウイグル地区)に生を受け、
7歳で出家し、8歳でカシミールにて小乗仏教を学びます。
帰途カシガルにおいてはじめて大乗仏教を学び、その優れていることを確信し、
亀茲に帰ってから大乗の「経」「論」の研究に没頭し、
この教えを世界中に伝えねば、と志を立てます。
ところが32歳の時、母国である亀茲国が中国王朝に攻め滅ぼされ、
捕虜となり、中国に連行されてしまうのです。
僧侶としての立場も失い、還俗させられ、
捕虜として戦乱の世であった中国で所々に転々と移されますが、
鳩摩羅什はどんな屈辱にも仏典翻訳の夢を忘れることはありませんでした。
51歳になってようやく長安に安住の地を見出しますが、
51歳という年齢は、当時ではもう人生の晩年です。
しかし鳩摩羅什は、今からが己の志を実行に移すとき、と目を輝かせ、
ここからあのめざましい仏典翻訳事業が始まったのです。
60歳で亡くなるまでに9年間で彼が成した翻訳は
後世永く中国および日本の仏教形成に重要な役割を果たしています。
時代に翻弄され、囚われの身で意に添わないことを強いられる20年間も
いつか来ると信じていた仏典翻訳の日のためにひたすら己を磨いた日々だったからこそ、
9年間で成し遂げることができた功績だったと言えます。
永らく捕虜として費やした身の境遇をのろい、
不平とあきらめで志を投げ出すような人だったならば、、
彼の名は今に遺っていないですし、
仏教を学ぶ私たちにとっても、それは多大な損失でした。
鳩摩羅什は20年間。
私たちのコロナとの戦いは何年になるか。
今は何もかも思い通りにならないとしても、
できることも何かあるはず。
いつか必ず自分の思いを果たせるときも来ます。
その時のために今できることを
やり始めていきたいものです。