【虚仮(1)】
和牛の高級ブランド「松坂牛」は、美味しい霜降り肉にするために、
畜産農家が牛にビールを飲ませるのは、よく知られています。
他の生産地でも、美味しい牛肉にするために、
有機で健康的な飼料にしたり、ブラシをかけたり、
牛がストレスを感じない環境で育てたりと、
お金と手間をかけることを惜しみません。
牛に名前をつけ、我が子のように呼びかけては
顔を撫でたりする農家の人の姿を見ると、
一見、牛をかわいがる動物愛護者に見えますが、
やがてその牛は屠殺業者に買われ、
その時、肉に少しでも高い値がつくようにするための
ビールであり、ブラシであり、飼料ですから、
牛がかわいいから、ではなく、
自分の財布がかわいいからではないのか、
と言われても仕方ないでしょう。
宮崎県の狂牛病騒動の際、狂牛病の疑いありということで、
行政により、何千頭の牛が殺処分されたことがありました。
牛を飼育している畜産農家の男性が
「あんまりだよ、別に狂牛病になったわけでもない、
ただ疑いがあるというだけで殺すなんて、牛がかわいそうだよ」
と目を赤くして、声を震わせていた場面を
テレビで見たことがあります。
そのご本人の様子からも演技ではなく、
本当に牛をかわいそうに思っているのはわかりますが、
その涙も、純粋に牛がかわいそうなだけで流したとは思えません。
なぜならその牛はたとえ狂牛病の嫌疑がなくても、
早晩、屠殺され、食肉となっていたのですから。
その涙には、自分の財布がかわいそうで流したものが
多分に含まれているのも、これまた否めないでしょう。
このように人間の情や慈悲心は清らかに見えますが、
心の底には、恐ろしい欲や怒りの心が見え隠れしています。
ただ普段それに気付かないで過ごしているだけです。