【三業(1)】
夏目漱石の家は、代々浄土真宗の門徒でした。
漱石の蔵書には、1084ページに及ぶ『真宗聖典』があり、
かなり読んだ形跡もあったそうです。
イギリス留学中、漱石は日記にこう書き記しています。
「真面目に考えよ、誠実に語れ、摯実に行え。
汝の現今にまく種はやがて汝の収むべき未来となって現るべし」
仏教を知っているからこう書いたのか、
あるいは経験則からそういう信念を持っていたのか、
真相はわかりませんが、この漱石の日記の言葉は、
「己が現在まく三つの種が、己の未来を造る」
と説く仏教の教えに通じます。
その三つの種を、仏教では『三業(さんごう)』といいます。
『業(ごう)』とは『行為』のことですから、
『三業』とは「三つの行い」ということです。
私たちは三方向からいろいろな行いをします。
○身業(しんごう)身体の行い、行動していること。
○口業(くごう)口の行い、語っていること。
○意業(いごう)心の行い、思っていること。
日々何を思い、何を語り、どんな行動しているか、
その毎日の三業の積み重ねが、業種子となって心の蔵に収まり、
やがて縁に結びつくと、幸・不幸の運命を生み出す
と仏教では説かれています。
だから仏教の因果の道理をよく知る人は
「真面目に考えよ、誠実に語れ、真摯に行え」
と自己を見つめるようになります。
仏教を聞いている、学んでいるといいながら
真面目に考えない人、誠実に語らない人、真摯に実行しない人は、
仏教を聞いてはいても、心ではあまり信じていない人
といえましょう。