【娑婆(1)】
『娑婆』とは「この世」のことで、
インドの言葉「シャバ」に漢字を当てたものです。
意味は「堪忍土」。
堪え忍ばなければ生きていけない世界、ということです。
この世で生きていくときには、腹が立っても、
それを口や態度に出せないことがほとんどです。
腹が立ったからと、言いたいこと言ってたら、
生きてはいけません。
我慢しなければなりません。
これは誰か一人のことではなく、みな同じです。
言いたいことをなかなかいえず、
やりたいこともいろいろ抑えて、みな生きているのです。
人と接すればどうしても、あの人は好き、あの人は嫌い、
という好き嫌いが生じます。
好きな人とは一緒におれず、嫌いな人とはなぜか接点が多い。
世の中は上手くいかないものです。
接点どころか、嫌いな人と笑顔で
握手しなければならないこともあります。
顔見るのも嫌だという人とも、仲良くやっていかねばなりません。
自分の思ったとおりにできることなど、ほとんどありません。
言いたいことでも、我慢しなければならない。
言いたくないことでも、言わなければならない。
まさに『堪忍土』です。
では、刑務所から出てきた人が
「娑婆の空気はうまいぜ」と口にするように、
刑務所の外を「娑婆」と呼ぶようになったのは、
なぜなのでしょうか。
それは全く自由がない刑務所生活を「地獄」にたとえ、
刑務所の外は、思い通りにならない娑婆とはいえ、
地獄の刑務所暮らしと比べれば、まだずーっとましで、
喜ばねばならないところだという意味から、
そう言われるようになったそうです。
「心に思うことかなわずとも地獄の苦に比ぶべからず」
と書かれています。
心に思うことかなわないことばかりの娑婆(この世)だけれども、
もっと苦しい境涯の地獄の苦と比べれば、
恵まれた今を感謝しなさいよ、と説かれています。