【業(ごう)(1)】
精神科医は「結婚すると豹変する人の心理的特徴」を述べ、
心理学の教授は「男女の嫉妬の違い」を解説し、
脳科学者は「イライラの発生」を分析してみせます。
それらの人の主張は、それはそれで正論に聞こえますし、
彼らの学説によって恩恵を被る人も多く、意義があるのでしょう。
ならば彼らの意見には耳を傾ける価値があるのでしょう。
しかしその精神科医が奥さんと上手くいかず離婚調停中だったり、
その心理学教授がライバルに嫉妬して陥れようとしたり、
その脳科学者が家族に怒りをぶつけて家庭を暗くしている、
ということがあるものです。
鋭い人間風刺で知られるラ・ロシュフーコーが
「人間一般を知ることは、一人一人の人間を知ることよりやさしい」
といっています。
精神科学、脳科学や心理学などの学問により、
現代人は人間の行動、考え方などの知識を身につけ、
人にまで話せるようになっていますが、
自らが日々直面している具体的な人間関係の悩みは、
少しも克服できないままでいます。
「わかっちゃいるけどやめられない」
知識や学問では解決できない人間の業(ごう)の複雑さを知らされます。