【業力(1)】
もう10年ほど前のことですが、
仏教講座に来られた40代のAさんは、
ちょうどバブルの絶頂期に入社された方でした。
その会社はボーナスが年3回出る優良企業です。
会社がAさんの携わっていた事業から撤廃したので、
新部署が決まるまでは、海外旅行などしてゆっくりしている、と言われていました。
その間の収入は?と訊くと、
正社員なのでリストラの心配も無く、
会社を休んでいても給料は出るそうです。
いい会社ですね、うらやましいです、とため息交じりに言うと、
なんでもAさんはその会社にさしたる就職活動もせず、
ただ大学の先輩から、うちの面接と試験を受けてみないか、と夕食をご馳走され、
すぐ決まったそうです。
あのころはそうだったんですよね。
私の大学卒業時もバブルの終わりかけの時でしたが、
やはり就職は引き手あまたでした。
その方が言われるには
会社に自分の後輩として入ってくる20代、30代は、
みな一流大卒で優秀な人材だそうです。
「うちに入ってくるのは、自分のような三流大は一人もいない、
たとえ一流大でも今はうちの会社はなかなか入れないですよ。
もし自分が今のご時勢で就活してたら、絶対入社できなかったんですよね。
そうなると、どんな才能で、どんな人格か、どの大学出たか、というよりも、
いつの時代に生まれたか、のほうが大きいですよね」
と言われていました。
心に残ったので、8年前のメルマガに、このエピソードを書いたことがあります。
それをなぜ今になって思い出し、再度書こうと思ったかというと、
中高年の引きこもりについて述べたメルマガの感想メールを
読者さんがくだされたのがきっかけでした。
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40代後半の娘に、ほんのちょっとだけ意見を聞いてみたことがあります。
「自分たちの時代、子供が非常に多かった。団塊世代の子供。
就職するにも、超氷河期で、相当努力しなければ正社員になれなかった。
当時、公文の会社説明会に出席したところ、2000人ほどの学生が集まっていた。
もうダメだと思ったこともあったけど、諦めずにたくさんの会社説明会を受けて頑張ったから、おかげで今がある。
優秀であっても、非正規社員が多く生まれた時代ではないか」。
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あの頃の就職戦線は、ちょうど団塊ジュニア世代で競争相手も多く、
かつ平成不況のど真ん中で、超氷河期だった時ですよね。
特にリーマン・ショック期は「就職できればどこでもいい」と学生も血眼になっていたものです。
現在40代の引きこもりが多いというのも、こういった時代背景と無関係ではないのでしょう。
ひるがえって現在の就職戦線はどうかといえば、
史上空前の売り手市場です。
「有給休暇100%」「女性管理職比率3割以上」など、働き方改革に便乗した企業のアピール合戦は続いています。
2020卒の学生が職場へ希望する条件も
「30歳までに年収800万円あって、安定していて、20時に帰れて、裁量権が大きい仕事がいい(明治大学、21歳)」
など氷河期世代が聞いたらひっくり返るような言葉も聞かれます。
高度経済成長、バブル、平成不況、リーマンショック、アベノミクス....
次々と変遷する世の中です。
その人が就職活動をした時期が、ちょうど超氷河期だったか、それとも今のように空前の売り手市場なのか、
いわゆる生まれる時期の10年、20年の差が、大変な運命の違いを生み出しているのです。
資質や努力よりも、生まれた時期の違いで収入や立場が決まってしまう、
とはなんとも不公平な話ですが、
人は多かれ少なかれそういった理不尽さを人生のいろいろな場面で感じながら
生きています。
しかしまだ私たちは平和な時代に生を受けたことを感謝しなければならないともいえます。
私の祖父二人は戦争に行き、
還ってきたときには一人は髪がなくなり、一人は総白髪になっていたと聞きました。
よほど戦地で壮絶な体験をしたのだと思います。
それでも生還できたことを家族みなで喜んだそうです。
戦時中のエピソード、人々の手記、家族に送った手紙など読むと、しみじみと、
「もしこの時代に生を受けていたら今ごろ自分はどうなっていただろうな」
と思いを馳せます。
そして現在の我身に振り返り
「なぜ私はこの時代にここに生を受けたのかな」
と考えさせられます。
この時代、この国に生まれ、この人と出会い、こういう道を進んでいる、
我が身に訪れた不思議に思いっきり感謝の言葉を捧げたいと心から言える、
そんな人生でありたいものですね。
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