【因果の道理(1)】
カヌー選手日本代表候補による禁止薬物混入事件が世を騒がせています。
ドーピングで失格になったアスリートは今までもたくさんいましたが、
他の人をドーピングで陥れようとしたのは、前代未聞です。
犯人の鈴木康大選手は、小学校低学年からカヌー競技を始め、数々の大会に優勝、
現在32歳で、東京オリンピックの日本代表候補になっていました。
今回の事件で、オリンピックはおろか、カヌー界は永久追放でしょうし、
おそらく他の職についても、あれだけテレビに顔が出ていますから、
どこへ行っても、何をしても、周りから「あのカヌー選手の鈴木康大」と言われ続けるでしょう。
なにより応援していた家族や友人に、今後どう接していくつもりなのか、
現在の彼の心境は、想像してあまりあるものがあります。
どうしてもオリンピックに出たかったのでしょう。
小学校低学年から30代までずっとカヌーに打ち込んできたのですから。
おそらく友人が恋愛や遊びに興じる中でも、
ストイックに練習を重ね、食事制限など生活全般にわたって、
他の人には想像できないような苦しいことを乗り越えて、
今のオリンピック候補になったのだと思います。
それをすべて台無しにしたばかりか、
「前代未聞の卑怯者」というレッテルを、
日本中、世界中から貼られる愚行を犯してしまったことは、
悔やんでも悔やみきれないでしょう。
それでもこれは「己のまいた種」と深く受け止め、
その苦しみを一身に背負っていかねばなりません。
しかし今回の事件で一つ、鈴木康大選手が新生する可能性の光を感じたのは、
彼が自分の罪を自ら告白したことです。
自分が陥れたライバルの選手が、ドーピングで失格処分となったのを知り、
良心の呵責に苦しんでの自白でした。
陥れてしまったライバルが、どんなつらい練習を重ねてオリンピックを目指してきたか、
自分自身が同じ道を通ってきた彼はよく知っているので、
失格処分になったライバルの苦悩も、他の誰よりも理解できたのでしょう。
自分が罪を白状すれば、ライバルは失格処分を免れ、
再びオリンピックを目指すことができる、
いったい今本当に自分がしなければならないことは何か、
迷いを重ねた上での自白だったのだと思います。
罪を告白したら自分がどうなるか、十分想像できたはずですが、
それでも彼は罪を償おうと決断しました。
なかなかできることではありません。
それができたのは、やはり彼が今まで苦しい練習を乗り越え、
鍛練を重ねてきた、その胆力があったればこそだと思いますし、
彼がカヌー競技を愛していた証拠だとも言えます。
これから地獄のような日々が待っていると思いますが、
勇気を出して謝罪した、というのも彼の「まいた種」です。
やがてそれが芽吹き、花を咲かせる日があることを念じたいと思います。
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