【有無同然(2)】
「のんきと見える人々も、心の底を叩いてみれば、どこか悲しい音がする」
夏目漱石の言葉です。
傍から見ると「あの人は幸せそうだなぁ」「あんな立場の人には苦しみはないんだろうな」とうらやましく思う人でも、
よくよくその人と腹を割って話をしてみると、
「こんなに苦しんでたのか」「こんなに辛い思いを抱えていたのか」と知らされてきます。
表面的な会話、付き合いではわからなかったことが、
深い付き合い、本音の部分を言い合う仲になると、
「そんな不安を抱いていたのか」
「そんなにまで焦燥感を持って生きていたのか」
と驚くのです。
それを漱石は「どこか悲しい音がする」と書いています。
私たちは自分の苦しみには敏感ですが、他人の苦しみには鈍感です。
人の苦しみを分かってあげられないのです。
世界が違いすぎるからです。
だから常に、自分に比べて他の人は「のんきに見える」のです。
部下は上司がのんきに見えてくる。
上司は部下はのんきでいいよなと思う。
夫は妻はのんきだなと思い、妻も夫はのんきだとイライラしている。
本当は、のんきな人などどこにもおらず、
ただその人の苦しみが、自分の目には見えないだけなのです。
よくよくその人の心の底を叩いてみれば、みなどこか悲しい音がします。
夏目漱石も当時の一般庶民から見れば、のんきに見えた人といえるかもしれません。
才能に恵まれ、容姿端麗で、
大学講師の時に執筆した「吾輩は猫である」でブレークし、
作家として文壇で不動の地位を築き、
妻や子供と大きな邸宅に住み、
たくさんの弟子も持ち...
その姿は糊口を凌いでやっと生きる一般庶民には、
何も悩みがない人のように思えたでしょうが
繊細で鋭敏な神経に人の世は相当つらかったらしく、
生涯、神経衰弱、ノイローゼで苦悶し、
持病のリュウマチ、胃病は年々悪化し、50歳で亡くなっています。
奥さんに宛てた手紙の中で
「人間は生きて苦しむだけの動物なのかもしれない」
と書いていますが、漱石の生涯の実感だったのでしょう。
=========
仏教の教える「本当の幸福」を分かりやすく体系的に学べる
全20回の無料メール講座です。
おもしろそうだなと思われた方はこちらから登録できます。
登録解除もいつでも自由なので、一度お試しに覗いてみてください。