【僧(1)】
私がまだ23歳、仏教講師になりたての駆け出しだった頃、
渋谷で開かれた先輩講師の講座に参加したときのことです。
講座修了後、質疑応答の時間で、
ある中年の女性が何かの質問をしました。
その質問自体は忘れてしまったのですが、その時、先輩講師が
「申し訳ありません。そこははっきりとはわかりませんので、
調べてからきちんとお返事しますね」
と言われたことが今も心に残っています。
その時の穏やかな表情も覚えています。
今まで学校の教師でも大学の教授でも
こういう受け答えは聞かなかったので、自分には新鮮で、心揺さぶられたからです。
わからないことを質問された際には、
わかったふりをして、いい加減な受け答えをするよりも、
わからないことは、わからないと認めた方が、
信頼感を持つ受け答えであることを、その時、知らされました。
また先輩講師の仏教への姿勢をその返答から強く感じ、
仏教を説く者はかくあるべし、と言動で教えていただきました。
知ったことは言いたくなるし、
知らないことでも知っていることにして言いたいのが、
名誉欲一杯の私たちの実態ですから、
ついその場しのぎのいい加減なことを言ってしまいがちです。
ところが信用されたいと思うあまり、言ってしまったその言動こそが、
人からの信用を失わせるのです。
知らないことを知らないと言うのは、
恥ずかしいことでもなければ、信用を落とすことにもなりません。
後でしっかり調べてきちんとお話すれば、
むしろ「誠実で信用できる人」と評価されます。
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