【生死の一大事(2)】
「死は一瞬だから怖くない」
「肉体の苦痛がなければ、死は恐ろしくない」
という人があります。
だんだん蝕まれて激痛と闘って死ぬのはごめんだが、
ころっといけるなら、死は怖くないというのですが、
果たして死の恐怖とは、肉体の痛みの恐怖なのでしょうか。
痛みを伴わず死ねるという点で、
まことに人道的なのは、実は「ギロチン」が挙げられます。
このギロチンを考案したのは、ギロチン博士という医師でした。
ギロチン博士と聞くと、名前からして、
とても残酷な風貌がイメージされることと思いますが、
実は慈悲深い、聡明な貴族だったそうです。
ギロチンができるまでのヨーロッパは
処刑の際は、サーベルで首を切り落とされていたのですが、
一撃で人間の首を切るのは大変でした。
人体でいちばん太い骨があり、
囚人も動揺して首を引っ込めたりしますので、
一撃では殺せず、時には剣先が頭や肩に当たり、
のた打ち回って苦しんでいるのを
何度も剣で切りつけて処刑していく、という有様だったそうです。
ギロチン博士は、
「そんな光景がかわいそうで残酷で見ておれない。
せめて痛みを感じさせず、一撃で確実に殺せるように」
とギロチンを考案したのです。
首が完全に固定されていますし、
重いギロチンの刃が高い位置から
スピードを伴って落ちてきますので、
屈強な男の首でも一撃でストンです。
刃が後ろの首筋に触れて「痛い」と感じたか否やの瞬間には
首は落とされているのですから、
痛みを感ぜずに死ねるという点では、
首吊りや電気椅子よりずっと優れているのです。
しかしこのギロチンの恐ろしさについて、
ロシアの文豪、ドストエフスキーが
「白痴」という小説で語っていますが、
実にリアルです。
▼処刑の宣告を待つ日々、
▼処刑の日の朝食、
▼ギロチン台まで連れられるまでの歩み、
▼ギロチン台の階段を上ること、
▼ギロチン台に首を固定されること、
▼ギロチンの刃が落ちてくる時の音、
これら全てが「ギロチンの恐怖だ」と
ドストエフスキーは言っています。
死のもたらす肉体的な苦痛は一瞬でも、
死に至るまでの精神的な苦悶は、計り知れません。
そしてそれは、死刑囚だけでなく、
全人類の「生」全体に覆っている不安です。
この生死の一大事が解決され、
死が障害にならなくなった自由な世界、
心の幸せがあることを
歎異抄では『無碍の一道』と説かれています。